ギリシャ・ローマ神話物語
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ギリシャ・ローマ神話のヘラ | 結婚の女神、ゼウスの家族、トロイア戦争での役割まとめ

三人の女神が一つの黄金の林檎を挟んで向き合います。ヘラ、アテナ、アプロディーテ。誰が最も美しいかを決めるこの審判を、神々でもなく人間の王子パリスに委ねることから物語が始まります。

ヘラは、この競争に立った三人の女神の一人として伝えられています。審判の結果とその後に起こることはパリス神話側の物語なのでここでは扱いませんが、ヘラがこの場に立ったという事実そのものが、彼女をトロイア戦争の伝承のまっただ中へと位置づけています。

ゼウスの姉であり妻という関係

ヘラは、ゼウスの姉妹であり妻として系譜化される女神です。兄弟姉妹であると同時に夫婦でもあるこの関係は、人間の家族観念からは馴染みが薄いものの、オリュンポスの神々の間ではそのまま通用する設定です。

この関係は、後に登場する場面でも改めて確認できます。イリアス第16巻でゼウスがヘラに言葉をかけるとき、彼は彼女を「妻であり姉」と呼びます。夫であり兄弟でもあるこの二重の位置が、二柱の神の対話を理解する背景となります。

結婚と女性、王権を司る女神

ヘラは、結婚と女性、王権と結びつけられるオリュンポスの女神として伝えられています。家庭を築き守る秩序、そして神々の王妃という地位を併せて象徴しています。

この王妃の地位は、名ばかりの名誉ではありません。トロイア戦争をめぐる神々の介入において、ヘラはギリシア軍の側に立って力を添える女神としても伝えられており、結婚と王権の女神が戦争の一方の陣営に立つこの結びつきが、後に登場する場面々の背景となります。

イリアス第14巻、アプロディーテの帯を借りる

戦争がギリシア軍に不利に傾いていたある場面で、ヘラは夫であり兄弟でもあるゼウスを引き留めておく必要を感じます。戦場を見下ろすゼウスの眼がギリシア軍から一瞬でも離れれば、その隙が戦況を変えうるからです。

ヘラが選んだ方法は正面衝突ではなく誘惑でした。彼女はアプロディーテのもとへ赴き、相手を魅了する力を宿す帯を借り受けます。力でぶつかるのではなく、関係の道具によって戦況を揺さぶろうとする選択でした。

そうして身支度を整えたヘラは、ゼウスの前に立ちます。妻であり姉が自ら近づいてくるこの状況でゼウスは心を奪われ、ヘラは眠りの神ヒュプノスに頼んでゼウスを深く眠らせます。誘惑だけで終わる策略ではなく、ヒュプノスの介入まで至って初めて完成する策略だったのです。

ゼウスが眠っている間にその隙を利用したのはポセイドンでした。ポセイドンはもともとギリシア軍を助けたいと思っており、ゼウスの眼が戦場から離れたこの隙に乗じて自ら戦闘に介入し、ギリシア軍を助けます。ヘラが作り出したのはゼウスを縛りつける状況であり、その隙で実際に戦況を変えたのはポセイドンの介入でした。

この策略には代償が伴いました。眠りから覚めたゼウスは、自分が騙されたことに気づき、怒ります。彼はヘラを激しく責め立て、戦場に出ていたポセイドンに引き下がるよう命じ、ギリシア軍が得ていた優位を再び取り上げます。ヘラの策略が戦況を恒久的に変えたのではなく、一時の隙を開いた代わりに、すぐにそれに見合う代償を払うことになったのです。

サルペドンの死、ヘラが反対した理由

同じ戦争の別の場面で、ゼウスは自分の人間の息子サルペドンがまもなく戦場で死ぬ状況に置かれたのを見守っていました。ゼウスはサルペドンを戦場から引き離して死を避けさせてやりたいと考え、この考えをヘラに打ち明けます。

イリアス第16巻でゼウスがヘラを呼ぶ呼称は、今回も「妻であり姉」でした。しかしヘラはこの考えに反対します。彼女が挙げた理由は感情ではなく前例でした。トロイア戦争にはサルペドンのほかにも戦場に出ている他の神々の人間の息子たちがおり、ゼウスが自分の息子だけを予定された死から外すなら、他の神々もそれぞれ自分の息子を救ってほしいと要求せざるを得なくなる、というものでした。

結果としてゼウスはヘラの言葉を受け入れ、サルペドンは予定された死を避けられません。この場面が示しているのは、ヘラが夫の意思にそのまま従う存在ではなく、戦争全体の規則が揺らぐのを防ぐために具体的な根拠をもって対抗する存在だという点です。

ローマのユノ、受け継がれる名と分かれる伝承

ヘラは、ローマ神話ではユノという名に対応づけられます。ただしこの対応は、神話を比較する際に用いる表記にすぎません。

ギリシアの原典にあるヘラの物語と、ローマ側で伝えられるユノの物語を、同じ作品、同じ伝承として混ぜて読む根拠はありません。名前が受け継がれているからといって、二つの神話の伝統が一つに合わさるわけではないことを指摘しておくのが正確です。

次の物語へとつながる人物たち

ヘラの夫であり兄弟でもあるゼウスがどのような神なのかは、ゼウス神話で続きを見ることができます。黄金の林檎をめぐって共に審判台に立ったアプロディーテの物語はアプロディーテ神話で、その審判そのものの顛末はパリス神話で確認できます。

ヘラがオリュンポスの神々の系譜のどこに位置するのかは、ギリシャ神話系譜まとめで、より広い全体像の中で見ていくことができます。