ギリシャ・ローマ神話のアポロン|デルフォイの神託、アルテミス、カッサンドラとの関係まとめ
ギリシャ軍の陣営のただ中に、矢が夜通し音もなく降り注いでいます。最初はラバや犬が倒れ、やがて時間がたつにつれて人々の間でも次々と動けなくなる者が増えていきます。この矢を放った神こそ、アポロンです。
弓術と音楽、予言をあわせて司るこの神は、片手にリラを、もう片方の手に弓を持った姿で描かれることが多いものです。しかし、彼を理解するには疫病を下す場面ひとつだけでは不十分です。彼が生まれた瞬間からデルフォイを築いた出来事、そしてカッサンドラにまつわる呪いまで、異なる時代の物語をひとつずつたどってはじめて全体像が見えてきます。
ゼウスとレートーの息子、アルテミスと並んで生まれる
アポロンはゼウスとレートーの間に生まれた神です。彼の傍らには、いつもひとりの存在がともに語られます。双子の兄妹であるアルテミスです。
ホメーロス賛歌は、この兄妹をあえて切り離しません。アポロンが弓術と音楽、予言という複数の力を備えた神として定着していく過程を歌いながら、その傍らにアルテミスが兄妹として立つ姿をも伝えています。二人の神が最初から並んで描かれるという点が、のちにアポロンが担うことになるさまざまな役割を理解する出発点になります。
ピュトンと対峙し、デルフォイを築く
賛歌の後半で、アポロンはある場所に正面から立ち向かいます。ピュトと呼ばれる土地を守っていた恐ろしい存在、それが怪物ピュトンでした。
アポロンはその場から逃げることなく、直接対決することを選びます。結果はアポロンの勝利で、彼はピュトンを打ち倒したまさにその場所に、神聖な聖域と祭祀を築きます。ここが、のちに人々が神託を求めて訪れるデルフォイへとつながる場所です。
ユネスコは現在のデルフォイを、アポロンの神託と考古学遺跡をあわせ持つ世界遺産として紹介しています。ただしこの説明は、現在残る遺跡とその価値を伝えるものであり、賛歌が語るピュトンとの対決が実際にあった出来事であることを証明する資料ではないという点は、区別しておく必要があります。
デルフォイで神託を立てた神が、はるか後のトロイア戦争が繰り広げられる戦場では、まったく別の顔で再び現れます。
ギリシャ軍の陣営に下った疫病
イリアス第1巻に移ると、アポロンは神託を立てていた神ではなく、自分に仕える者の祈りに応える神として登場します。彼の祭司クリュセスが切実に祈りを捧げると、アポロンはその祈りをそのまま受け入れます。
彼が選んだ応えは、慈悲ではなく災厄でした。アポロンはギリシャ軍の陣営に向かって矢を放ち、疫病を広めました。この矢はラバや犬から始まり、人々へと広がっていったのです。
ひとりの祭司の祈りが、軍全体を揺るがす結果につながったわけです。音楽と予言を象徴していた神が、同時にこれほど重い罰を下しうる存在であるという事実が、この場面を通してはっきりと示されます。
カッサンドラ、アガメムノンの宮殿の前でアポロンを呼ぶ
アポロンとカッサンドラの関係は、これまでの二つの物語とはまた別の場所で確認されます。ホメーロス賛歌やイリアスではなく、アイスキュロスが書いた悲劇『アガメムノン』においてです。
この作品の中でカッサンドラは、自分とアポロンの間に予言と呪いがともに絡み合っていると、自ら語ります。先を見通す力と、その言葉を誰にも信じてもらえない境遇が、一体のように結びついているという意味でした。
同じ神を語ってはいても、この関係は賛歌や叙事詩が描き出したアポロンとは趣の異なる層です。だからこそ、アポロンをひとつの原典だけで読むと、この三つの物語の間の違いがかえって曖昧になってしまうことがあります。生まれてデルフォイを築き、戦場で疫病を下し、カッサンドラの前で呪いとして再び呼び出されるこの神をきちんと理解するには、それぞれの物語がどの作品から出たものなのかを、常に区別しながらたどるのがよいでしょう。
次の物語へつながる人物たち
アポロンと予言・呪いで結ばれたカッサンドラがその後どのような結末を迎えるのかは、カッサンドラ神話で引き続き確認できます。彼を生んだ父ゼウスがどのような神なのか気になれば、ゼウス神話で見ていくことができます。
ピュトンを打ち倒したのちアポロンが築いたあの場所、デルフォイそのものの物語は、デルフォイの物語でさらに詳しく扱います。アポロンと争ったのち和解した兄弟ヘルメスの物語は、ヘルメス神話で引き続き読むことができます。